大規模修繕工事の概要
大規模修繕工事の意義と目的
「大規模修繕工事」とは、一定の周期で修繕する事が望ましい「計画修繕」等のうち、工事内容、工事費、工事期間などが多大となる工事のことを言います。
通常、劣化損傷した屋上や、外壁などの建物各部を、現状又は実用上支障のない状態までに性能、・機能を回復させるための大規模な修繕を指差していう事が多いですが、計画修繕にグレード・アップの要素、すなわち「改良」を加味した外壁改修工事も、「大規模修繕工事」と呼んでいます。
大規模修繕工事の目的
マンション大規模修繕工事の発注手順
大規模修繕工事の基本的な進め方は次の通りです。
これらの全ての内容を管理組合の内部でこなす事は難しいので、外部の専門家の協力を得て行なうのが一般的です。
これら全てを管理組合の内部でこなす事は難しいので、外部の専門家の協力を得て行なうのが一般的で、大規模修繕工事を発注する方法には代表的な次の2つの方式があります。
責任施工方式(設計施工方式)
「責任施工方式」は信頼の置ける施工会社数社に呼びかけ、調査診断・修繕基本計画・修繕設計・工事費見積りなどを依頼し、そのうちから一社を選んでそこに大規模修繕工事も請負わせる方式です。
- 【特長】
- 管理組合が施工会社を選定する。
- 施工会社とのやり取りは管理組合が直接行なう。
- 施工会社によって工事の内容に差が出てくる。
- 工事内容・金額や施工会社選定、工事監理に第三者のチェックが入りにくい。
このため、修繕委員会などがこれらを区分所有者に説明できるよう充分な検討・整理が必要。
価格競争が少ない、専門的な第三者によるチェックがないなど、容易な工事になってしまい、結果的には割高になってしまう可能性もあります。したがって小規模マンションの修繕工事にはこの責任施工方式が採用される事がありますが、大規マンションにこの方式が採用される事は少ない様です。
設計監理方式
「設計管理方式」とは管理組合の合意の後、設計事務所などコンサルタントを選び、そのコンサルタントに調査診断・修繕基本計画・修繕設計・工事費見積・資金計画・総会決議までの専門的、技術的、実務的な部分を委託し、大規模修繕工事の段階では工事監理を委託する方式です。設計と施工(会社)が分離しているので、施工会社の選定を同一基準で行なう事が出来、工事の厳正なチェックも期待できるので、管理組合にとっては安心して進められる方式です。
- 【特長】
- 技術力を持つ設計事務所や管理組合団体、日常管理を委託する管理会社を活用。
- 工事内容・金額について施工会社以外の第三者のチェックが入る。
- 監理者責任が明確。
- 設計・監理費が必要。
管理組合では工事監理を建築設計事務所に委託するのが普通です。この建築設計事務所が建物診断・修繕設計をして工事仕様書を作成し、この仕様書に基いて施工業者に見積書を提出させて業者を選定します。専門的な業務を専門家に委託するため、合理的な方式と言えます。しかし、この業務委託費にかかる費用の負担が管理組合にとっては重荷となります。したがって中規模以上のマンションでないとこの方式の採用は難しいのが実情です。
設計監理方式の場合、業務委託をする事により発生する費用は無視できない金額になります。特に専門技術者を活用して工事監理を委託するとなると、それに要する費用は工事金額全体の5%~8%を占める事になります。場合によっては日頃から付き合いのある信頼の置ける施工業者に特命で発注して、工事を自主管理させる方式の方が、設計監理方式より有利であると言う考えも出てきます。
なお、管理会社を活用する場合は管理組合が弱体な場合、管理組合に企画立案力や執行力が欠けるなどが多く、そのため管理組合が管理会社に依存して大規模修繕工事を実施して行く方法です。決定は管理組合が行ないますが、そのお膳立ては管理業者が行なう法式とも言えます。
また、管理会社活用の場合には調査・診断、修繕設計、工事監理、施工までのすべ一括して契約するもの(実質的に責任施工方式)と、調査・診断、工事監理のみを契約し、施工は別の会社を選定する方法があります。しかし、全て管理会社に依存する場合には管理組合の手間は省けますが、第三者によるチェックが入らないので、管理組合の内部事情に詳しい反面、管理会社主導で工事が進み、管理組合の意見や要望が反映されにくい、という欠点もあります。
見積り依頼者の選定
管理組合は、期間を決めて見積り参加者募集し、応募のなかから管理組合で決めた基準を満たす応募者を選定して見積りを依頼します。見積り依頼者の選定に当たって管理組合は次の様な項目を検討します。
会社の社会的信用度
売上高、財務内容、従業員数など。例えば公共工事と民間工事に多くの実績があり、技術的に信頼のある会社かどうか。建設業登録及び許可内容、有資格技術者数、業界の加入団体など。
会社の組織、規模、方針、能力。
見積り内容の正確さ、工事費(数量、単価)の妥当性、施工管理体制、協力会社の質、熱意・姿勢(会社として)等。品質管理がしっかり出来るか、現場代理人の経歴や人柄はどうか、入居者対応が上手か、信頼に応え得るか。また、工事完了後の保障期間と内容、長期間のアフターメンテナンスに対応出来るかどうか。
施工に当っては、入居者のご理解とご協力が欠かせません。
そのため、事前の工事説明会や、掲示板などを通した告知など、丁寧な入居者対応能力も重要なポイントになります。
マンションの修繕工事実績
新築と違って、マンションの修繕は生活をしながらの工事であるため、その対応能力や入居者への配慮が特に重要視され、その体制が整っているかどうかが大切です。そのためには多くの大規模修繕工事の実績と経験を持つ業者がその事情に精通しており、客観的には品質管理も期待出来て信頼性が高いと言う事が言えます。ただし工事実績の中でも元請工事の実績が重要で、下請工事が大半と言う業者では施工管理能力、品質管理能力、入居者への対応能力の点で未知数と言う事も考えられます。
施工業者の選定
修繕工事を実施する業者を決定するには、見積書を提出させて評価します。もし、設計図や仕様書などの条件も示さないまま見積りを要求した場合、各施工業者は勝手な解釈で見積もるため、見積り提出業者の金額が大きく開いてしまい、比較評価ができないため結局は金額が安いだけの理由で施工業者が選ばれることになります。これでは「安かろう、悪かろう」の施工業者の選定という結果になりかねません。この様な事態を避けるためには、工事範囲と仕様を明確にして見積り条件を統一する事が必要です。
仕様書で要求されている性能を満たす修繕工事を、適正な価格で発注する業者を選定する方法として、大別すると次の三つになります。
特命随意契約方式
この方式は特命発注の事で、過去に実績があり、特に信頼関係の強い会社を一社指名して見積りを取り、協議の上契約する方式です。これは、信用できる業者を指名したので全て安心して任せる事が出来、竣工後のアフターサービスについても十分な補償が得られる反面、価格の比較が出来ないという点が上げられます。
現状のところ管理組合は多数の区分所有者の集まりであり、その代表である理事会が特定の会社を指名して、その理由をいかに説明しようとしても各人が納得して合意に至る事は難しく、最近の大規模修繕工事で採用されるケースは少なくなりました。
指名参加見積り合せ方式
指名参加見積り合せ方式は、理事会の決議による決議、又は居住者からの推薦により複数の施工業者を指名して見積書を提出させ、理事会又は修繕委員会による検討・評価によって決定する方式です。業者の選定には客観性があり、選定理由の理論性においても優れており、一般的に広く行なわれている方法です。
一方、指名についての公明性、選定基準の明確化、選定の経緯、選定の理由などを明確にしておく事が重要です。なお、工事中の施工管理体制やアフターサービスや保証について、きちんと契約しておかないと後で問題が発生し易い様です。
指名参加型競争入札方式
指名参加競争入札方式は、発注価格の決め方について客観性があり、低価格での発注の可能性が高くなります。一方、入札した総金額で業者が決まってしまうため、その内訳がどうなっているのか評価し難いという欠点があり、最低入札価格と最高額との価格差が大きくなったり、場合によっては不調に終わる事もあります。評価が価格のみで決まる事は「易かろう、悪かろう」と言う結果をもたらす可能性も排除できず、指名の時点での見積り参加業者の適正な絞込み、又は仕様書、見積り内訳書の内容がしっかりしているかどうかが重要なポイントになります。
管理組合の理事会が、どのような発注方式を選択するかは、管理組合が区分所有者に業者選定の経緯と手続きをいかに説明できるかという点にあります。したがって、この選択は管理組合の工事発注に関する知識と業者評価の技術、発注後の管理能力なども考慮して決まると言えます。
工事費の見積りを募る対象会社の選択については、おおむね次の様な分類があります。
- 1. 区分所有者からの推薦会社の募集
- 2. コンサルタントまたは管理会社からの推薦
- 3. 当該建物の新築時の施工会社
- 4. 施工会社からの営業(売り込み)
多くの場合、これらの方法のいくつかを併用して数社の見積り会社を選択しているのが実情です。
ヒアリング
見積書が提出された段階で施工会社を選定する事もありますが、ただ金額だけで判断しないで、その会社が持っているモチベーション等を確認するために、3社くらいに絞り込んだ後理事会や修繕委員会に来てもらい、ヒアリングを行なう場合もあります。
その時、現場を担当する代理人の人(現場代理人)に必ず出席してもらいます。工事の良し悪しは会社の技術力、施工管理のレベルが高いのはもちろんですが、現状では現場監督の技量による所が大きいですから、その人柄を含めて大切なチェックポイントになります。工事が始まってからの窓口は現場監督に一本化されるため、居住者への対応能力等の経験、実績が重要になります。
さらに、会社の体制、工事の体制、アフターサービスの内容、工事内容の理解度などについて直接聞くという行為がヒアリングです。場合によっては提案型のヒアリング行なう事も方法の一つで、各施工会社の独自の判断による仕様、施工方法、使用材料などを検討材料とします。設計サイドからの見方とは違って、施工側から見た経験に基く工法、作業性の良さ、合理性など、参考にすべき要素を抽出するためには有効な手段と言えます。
大規模修繕工事に失敗は許されません。
本当にその計画に納得されていますか?
もしそうでないのであれば、取り返しがつかなくなってしまう前にもう一度見直すことをおすすめします。
建物劣化診断のご案内
建物劣化診断の目的
株式会社明和では理事長様やご担当役員様、あるいはオーナー様とのご面談の上、現状の劣化状況や修繕内容をお聞かせ頂くことで、「建物劣化診断」を実施しています。
建物診断お申込みフォームからお申込みください。
建物の簡易診断を受けることにより、予防及び事後の安全、建物の機能向上、資産価値の維持向上に努めることが可能です。
診断内容は、状況に応じて塗膜引張り試験等の微破壊検査、アンケート調査を実施します。
診断の種類及び内容
診断レベルは一般的に次のように分類されています。1次診断は建物の劣化の度合いを大まかに把握し、2次診断及び3次診断については劣化の要因を特定し、修繕や改修の要否等の判断を行う目的で実施されます。2次診断及び3次診断を合せて高次診断(詳細調査)と呼ぶ場合もあります。
診断レベルの分類 | 主な目的 | 調査方法 | 調査対象 |
---|---|---|---|
1次診断 | 現状の把握 劣化の危険性の把握 |
目視検査、指触調査、軽微な機器(打診調査)、ヒアリング | 設計図書、修繕履歴、保守点検記録、外観、共用部分(屋上、外壁、バルコニー、共用廊下、鉄部、外構) |
2次診断 | 劣化の危険性の判断 改修の要否の判断 |
目視、打診、非破壊検査、微破壊検査(塗膜引張り試験など)、アンケート調査 | 同上共用部分 |
3次診断 | より詳細な診断、評価 | 目視、打診、局部破壊検査(コア抜き中性化試験など)を含む抜管、内視鏡調査 | 共用部分に加え、一部専用部分も含む |
劣化診断報告書の内容
- 調査概要
- 建物概要、調査項目、調査の部位
- 調査結果
- 調査結果のまとめ、劣化度算定表、総合所見
- 調査写真
- 調査の内容、部位の写真
- 劣化内容・原因・評価
- 劣化の種類、程度、原因
- 塗膜付着力試験
- 試験の概要、結果(有料)
- 調査結果
- 劣化度算定表、総合所見
- 改修案の策定
- 部位、現状、改修仕様
※この建物劣化診断及び御見積りについては、今後修繕工事を予定されているお客様を対象とさせて頂きます。
建物長期修繕計画、又は建物の資産価値調査などを目的とする場合は、大変に恐れ入りますが対象外とさせて頂きます。
また、建物耐震診断などの業務は行っておりませんので、専門の構造関係を専門とする設計事務所、コンサルタントなどにお問い合せください。