修繕計画

修繕工事計画の策定

実施計画の内容について

実際に工事を実施するに当たっては、事前に実施計画をきちんと策定する事が基本です。
綿密な計画なくして実行に走るケースも見受けられるようですが、戸建住宅と違ってマンションの場合は様々な方が入居しているため、事前の計画無しに工事を開始してしまうと居住者の足並みが整わず、様々な不安やトラブルを引き起こす事も少なくありません。
そのため、実施計画立案に当たっては次の内容を決定します。

  • 工事の範囲
  • 実施時期と工事期間
  • 修繕設計(施工の範囲 工事の仕様、工法、材料の決定)
  • 修繕項目の目安・周期
  • 工事予算

修繕工事範囲について

建物診断の結果に基いて、大規模修繕工事の範囲を決める事になりますが、「何の工事を、どのような方法で、どの期間期間に行なうのか」を検討し、その結果は居住者に広報して理解を求めます。
工事範囲の決定は、竣工図、定期点検結果、過去の修繕記録、アンケート調査結果、診断結果などに基いて行います。この目的は、大規模修繕工事をどの範囲まで行なうかを明確にし、区分所有者の合意を得ておく事です。

修繕工事範囲

また、工事の範囲を決定する前に、場合によっては工事の優先順序を確認する事も必要となります。
工事予算が潤沢にあれば問題ありませんが、全体予算が限られている場合には工事全体の再検討を行なう事になります。
この場合、方法としては「工事範囲を縮小する」、又は「仕様・材料のグレードを落として工法も変更する」という方法もありますが、通常は前者の方法を取る事になります。

優先順序を決定した後、工事予算に応じた工事範囲を再検討し、最も合理的でかつ費用対効果の高い工事を考慮して決定します。

長期修繕計画は基本になりますが、建物の劣化の地域差や立地条件により進行は一律ではないため、決まりきった修繕計画がそれに当てはまるとは限りません。
一部の修繕設計にまだ必要のない屋上防水工事が含まれていたり、実際には不要で過剰なスペックが載っているケースも散見されます。

あくまでも大規模修繕工事の主体は管理組合様であり、コンサルさんや管理会社さんの都合による修繕計画は不適切であり、結果的に適正な予算配分がなされないまま工事は進行していきます。
確かに修繕計画の提案は、専門家に依存せざるを得ませんが、あくまでも決定権は管理組合様にあることを再確認して頂き、全体予算とバランスを十二分に考慮されたご判断が必要です。

実施時期と工事期間

外壁改修工事は、期間中に建物の周りに足場を立て、窓の周りをビニールシートで塞いでしまう事になるため、居住者の生活を考慮して、実施時期を決定します。
品質確保の面から、凍結の心配のある真冬の北面での作業や、乾燥の著しい真夏の南・西側壁面での作業は好ましくありません。

また、雨の多い時期と真夏の暑い時期を避けた方が良いでしょう。
ただし足場の架設する時期とか、工事の調査診断などの期間は天候に影響される事も少なく、冬、又は晩夏に食い込んでも大きな支障はありません。
最も影響されるのは下地補修と外壁塗装、防水の工程です。

工事期間については、天候の不順や工程上の都合により工期が伸びたり、追加工事の発生で工事が延滞気味になる事もあります。
従ってその様な事態を事前にご理解いただき、ある程度幅を持たせて無理のない修繕計画を立て頂く様頂く様お勧めします。
また、1~2回目の改修時期に差し掛かる分譲マンションが多くなって改修物件が増え、更に、業界全体に渡る職人不足により人員の確保が困難になっています。その為全体工期は長期化の傾向にあり、最近の仙台で50戸位の平均的な規模のマンションでは4~5ヶ月間、100戸を上回る様な規模とか複数棟がある場合になるとやはり6~8ヶ月位の工期が必要でしょう。加えて、建設業界でも令和6年4月からの週休2日制の正式な導入に伴い、更なる工期の長期化と共通仮設費・諸経費などへの影響が懸念さています。

修繕設計(工事仕様、工法、材料)の決定

修繕設計は改修設計とも呼ばれ、「建物診断により修繕すべき」とされたものについて、どんな材料と工法でどのように修繕すべきかについて明らかにしたもので、それに基づき工事費の見積りが出来て、かつ適切な工事施工が行なわれるもののことです。
修繕設計の手順は次の通りです。

修繕設計(工事仕様、工法、材料)の決定
  • 材料、工法の詳細検討
  • 精算項目、指定数量の設定
  • 設計図書の作成

ここで言う「精算項目」と言うのは、設計段階では施工すべき数量が確定できない工事項目の事です。

例えば、ひび割れの長さ、鉄筋爆裂、欠損の個数、タイルなどの(指定数量)であって、この数量で契約し(単価は決定)し、工事が始まり実施数量が確定した後精算します。
この方式を「実費精算方式」又は「実数精算方式」ともいい、修繕工事では重要な項目です。

工法や材料の仕様は技術的な問題であるため、専門知識が必要です。
そのため、修繕委員会などで作成する事は困難で、建物診断をした業者や設計事務所に委託するのが一般的です。

特にこの中で重要視しなければならないのは下地補修の工程です。
これは工事の中で最も解りにくい工程の一つで、管理組合や居住者への充分な説明がなされないケースも少なくない様です。
例えば外壁のクラック、鉄筋爆裂、欠損、バルコニー床に浮き、漏水など、建物の寿命を大きく左右する様子が多く含まれているからです。

建物全体のクラックのメーター数、爆裂、欠損の数量、床浮きの面積、具体的な施工方法、など、適正な診断に基づいた正確で最適な工法・材料の選択を取る事が重要です。
この項目は設計事務所などの調査診断に全面的に依存する形になりますが、最も修繕設計の能力水準や経験、モラルなどが問われる重要なポイントと言えます。
特に修繕設計と施工が分離していない設計施工方式の場合、この点のチェックが重要視されます。

また、仕様書が重要な意味を持つのは、施工業者はこの仕様書に基いて見積もり金額を算出する事になるからです。
もし仕様書が適切に作成されていなかった場合、施工業者が勝手な解釈で見積書を作成するという結果になり、評価段階で価格のバラツキが大きく比較検討が難しくなります。

なお、材料の質感や色など仕上に関する項目は女性の関心も高いため、修繕委員会、理事会への積極的な参加を促し、多くの意見を聞き慎重をきして決定する事も重要です。
特に、外壁塗料の色彩決定は見本板の展示やアンケート調査を行い、出来るだけオープンにした選択方法も有効です。

修繕項目の目安・周期

快適なマンションライフを過ごして頂くために、必要な修繕の目安と周期を見やすく年表形式にまとめました。

修繕項目の目安・周期PDF(61KB)はこちら

概算金額の算出と工事予算額の決定

大規模修繕工事の概算費用は施工数量を計算し、それに修繕単価を掛けて求めます。
修繕単価は標準単価と実勢価格を参考にして決めるため、実勢価格に通じたものでないと出来ない事から専門家が行います。

工事概算金額書を作成する主な目的は、工事にかかる金額を予測し、手持ち資金である修繕積立金残高と比較して、資金が足りるかどうかを判断する事にあります。

工事予算

もし資金が不足する場合には次の様な選択肢の検討を行なう事になります。

● 組合員からの一時金の徴収
● 不足額の借り入れ
● 工法の変更による減額
● 一部の工事を先送りする事による減額

ここで注意していただきたい点は、修繕工事が新築工事と違い不確定要素が多く含まれているという点です。
多くの診断費用をかけて建物調査を行ったとしても、その施工数量はあくまで仮定の数量に過ぎないという事です。
実際問題として施工前に足場を架けて再度実数調査を行なう段階で、見落とした不具合が発見されたり、劣化の状況が予想以上に進んでいるケースが多々あります。
また、施工の段階になって隠れた不具合が発見されたり、調査で見落としたり抜けていたりする事もあります。

又は当初の仕様では問題なかったが、建物全体のバランスを考えて材料・工法のグレードアップが必要になったり、追加工事が必要になる事もあり、管理組合、修繕委員会との再検討が必要になります。
この様に修繕工事は設計変更はつきものであり、工事施工中に設計変更は多くあります。
そのため工事予算を策定するに当たり、工事費全体の5~10%の予備費を計上する事も検討課題の一つです。