下地補修工事

下地補修工事についてご説明します

下地補修工事について

下地補修とは…塗装・防水施工などをするにあたり、素地面の補修工事をすることです。
凸凹や亀裂、欠損やピンホールなどを削り取ったり・埋めたりするとても大切な作業です。

ビル・マンションなどの建物は主に、鉄筋とコンクリートでできています。
これは、鉄の酸性とコンクリートのアルカリ性によって中和され、耐久性を高めることを目的としています。

コンクリートは外気の温度が高いと膨張し、温度が低いと収縮するという性質があります。
年数が経過するごとにコンクリートは収縮を繰り返し、ひび割れが発生する等の不具合が起こります。
そのまま放置すると、ひび割れから雨水が浸入し、内部の鉄筋の腐食を促して建物の寿命を縮めてしまいます。
これを補うために下地補修が必要となるのです。

下地補修工事の重要性

マンションは鉄筋コンクリートでできているため強固な建物ですが、年月の経過とともに劣化が進みます。
コンクリートはセメントと砂と砂利に水を加えて練り上げてできたものですから劣化は避けられません。
表面の仕上げが劣化したり、ひび割れができると、雨水の侵入などで徐々に中性化が進み中の鉄筋が錆びて膨張し、それがコンクリートを押し出して破壊します。

このような、劣化や機能低下を放っておくとどうなるでしょう?
コンクリートの劣化による崩落事故が起きたり、ライフラインである給排水・電気設備の故障は生活自体に支障をきたしかねない状況が発生してしまいます。
こうした事態は、建物の管理を行うものにとっては絶対に避けたいものです。

これらは、定期的に点検・調査を行い、補修をしていけば避けられます。
劣化を放置しておくと進行が早まり、大掛かりな改修になってしまい費用がかかってしまいますが、計画的に実施すればその分コストも抑えやすくなります。
コンクリートのひび割れは小さいうちに埋めておいたり、調査を定期的に実施しておけば劣化の進行を抑えることが出来ます。

下地補修工事は、建物本体(コンクリート)のひび割れ・鉄筋爆裂・欠損・浮きなどを補修し、建物の寿命を延ばすと共に、その後に行う「塗装工事」「防水工事」「磁器タイル改修工事」においての仕上がりに大きく影響する工事です。

どんなに良い塗装材や防水材を用いても、この躯体補修をしっかり行わなければ建物を保護する事は出来なくなってしまうので大変重要な工事です。
つまり、建物の寿命(耐久性)を左右する最も大きな要素は「下地補修工事」なのです。

躯体の劣化状況の例

1.クラック

クラック

コンクリートやモルタルの乾燥・収縮または地震などによる挙動のため、経年をへた躯体には大小のひび割れ(クラック)が生じます。
ひび割れに雨水や炭酸カガスが浸入するとコンクリートは中性化が進み、内部の鉄筋を腐食膨張させて爆裂や欠損を促進させる要因となります。

また、バルコニーや開放廊下床面に生じたクラックは放置すると貫通してしまい、雨水が浸入した結果天井や軒天にエフロレッセンス(白化現象)が生じ、大きく美観を損ねるだけではなく鉄筋の腐食を生じて躯体へダメージを与えます。

2.モルタル浮き

モルタル浮き

現在のコンクリート打ち放し工法では型枠の精度もよく、不陸調整のための厚いモルタル塗り仕上げはありませんが、実際には寸法を調整したりするため薄いモルタルが塗ってあり部分的に浮きが発生します。
また、バルコニーや開放廊下の床面・RC階段の踊場などにも勾配調整のためモルタルが塗られているため、経年の劣化により床面に浮きが生じやすくなります。

また、手摺壁の天端もモルタルで成型されている事が多く、浮きが発生して天井や軒天と同様に落下の可能性もでてきます。

3.鉄筋爆裂

鉄筋爆裂

コンクリートの外壁は2.0cmの被り厚さ(鉄筋から外壁面まで距離)が義務付けられ、炭酸ガスや雨水の進入によるコンクリートの中性化を防止していますが、場合によっては被り厚さが不足しているケースが見受けられます。

多くの原因は竣工時の型枠の精度が不足していたり、施工不良によって規定の厚さが保たれていない事にあります。
その結果コンクリートの中性化が進行し易くなり、鉄筋が腐食して膨張した結果爆裂に至ります。
爆裂は一般外壁の他にバルコニーや開放廊下にも見られ、頭の少ない庇や軒天には特に発生しやい現象です。

4.欠損

欠損

欠損はひび割れや爆裂によっても生じますが、躯体の挙動によるモルタル破壊や、寒暖の差による鉄とコンクリートの伸縮係数の違いによっても発生します。
例えば鉄骨階段梁の取合いヶ所や、手摺壁スチール手摺取合いヶ所の欠損が代表的な例です。

下地補修工事の工法

改修工法

擦り込み工法(クラック幅0.3mm未満の場合)

0.3mm未満のクラック幅場合には注入が出来ないため、微弾性フィーラーや可透性エポキシ樹脂などを擦り込んで押えます。
なお、シール材には樹脂の柔らかさを維持するための可塑剤が含まれており、使用後に塗膜に汚染が及んで美観を損なうため使用しません。

  • 擦り込み工法(クラック幅0.3mm未満の場合)手順1

    清掃の状況
    ダスターなどで埃などを除去する。

  • 擦り込み工法(クラック幅0.3mm未満の場合)手順2

    微弾性フィーラー擦り込み状況
    微弾性フィーラーやかとう性エポキシ樹脂をひび割れに沿って充填。

  • 擦り込み工法(クラック幅0.3mm未満の場合)手順3

    擦り込み完了
    表面を平滑にして完了。

エポキシ樹脂低圧注入工法(クラック幅0.3mm以上1.0mm未満の場合)

幅0.3mm以上のクラックに対して行う工法で、クラック周囲が粗面であればケレンなど清掃し、注入器具を現状に応じたピッチで取付け、注入器具間のひび割れをシール材等で被覆してエポキシ樹脂を注入器具より注入し、クラック内部まで充填する工法です。

  • エポキシ樹脂低圧注入工法(クラック幅0.3mm以上1.0mm未満の場合)手順1

    施工前
    クラックを確認してマーキングを行う

  • エポキシ樹脂低圧注入工法(クラック幅0.3mm以上1.0mm未満の場合)手順2

    ケレン清掃
    シール材に不純物が混じらないように清掃を行う

  • エポキシ樹脂低圧注入工法(クラック幅0.3mm以上1.0mm未満の場合)手順3

    台座シール取付け
    シリンダー取付け用の台座を取り付け、注入樹脂の漏れ防止のためにシールを行う

  • エポキシ樹脂低圧注入工法(クラック幅0.3mm以上1.0mm未満の場合)手順4

    エポキシ樹脂注入
    低圧注入用のシリンダーを台座に取り付ける

  • エポキシ樹脂低圧注入工法(クラック幅0.3mm以上1.0mm未満の場合)手順5

    エポキシ樹脂注入
    エポキシ樹脂をシリンダーに充填し、ゴムヒモの力ゆっくり注入する。(低圧注入)

  • エポキシ樹脂低圧注入工法(クラック幅0.3mm以上1.0mm未満の場合)手順6

    エポキシ樹脂注入完了
    台座とシールを撤去してシリンダーを取り外します

Uカットシール充填工法(クラック幅1.0mm以上の場合)

躯体に生じたひび割れには、大きく分けて、コンクリート自体の収縮により生じたものと、 建物の構造上の理由から生じたものとがあります。
前者の場合、挙動(割れが広がったり縮まったりしようとする動き)のないものが多く、割れ内部にセメント材等を充填して修復を行います。

それに対して後者の場合、挙動があり、今後も割れが大きくなる可能性があるため、Uカットシーリング工法を多く用います。
この工法では、割れ部分に溝を作ってシーリング材を充填することで、割れが広がろうとする動きにシーリング材が追従します。

  • Uカットシール充填工法(クラック幅1.0mm以上の場合)手順1

    施工前
    クラックを確認してマーキングを行う

  • Uカットシール充填工法(クラック幅1.0mm以上の場合)手順2

    Uカットの状況
    ダイアモンドカッターを用いてUの字型に幅10.0mm前後の溝を切る

  • Uカットシール充填工法(クラック幅1.0mm以上の場合)手順3

    プライマー塗布
    シール材の剥離防止のためプライマーを塗布する

  • Uカットシール充填工法(クラック幅1.0mm以上の場合)手順4

    シール打ち込み
    弾性シーリング材を充填する

  • Uカットシール充填工法(クラック幅1.0mm以上の場合)手順5

    モルタル処理
    ゴムへらを使って平滑にする

  • Uカットシール充填工法(クラック幅1.0mm以上の場合)手順6

    施工完了
    シーリング材の痩せを防止するために表面をポリマーセメント処理して完了

エポキシ樹脂ピン注入工法(床面モルタル浮きの場合)

浮き部に対しその隙間にエポキシ樹脂を注入し且つアステンレス製のピンを併用して浮き面積の拡大を阻止すると共に、大面積の剥落を防止する工法で、一般的には16本/㎡で指定部分では25本/㎡とし、狭幅部では幅中央に200ピッチとなっています。
開放廊下やバルコニーの床面は落下などの危険性は余りないため、一般的にはピンなしの工法が主流です。

  • エポキシ樹脂ピン注入工法(床面モルタル浮きの場合)手順1

    施工前
    浮きを確認してマーキングを行う

  • エポキシ樹脂ピン注入工法(床面モルタル浮きの場合)手順2

    穿孔の状況
    6.0mmのピン径にドリルで穿孔する。せん孔は躯体コンクリート中に30mm以上行う

  • エポキシ樹脂ピン注入工法(床面モルタル浮きの場合)手順3

    清掃
    孔内の切粉をブラシや圧縮空気等で除去する

  • エポキシ樹脂ピン注入工法(床面モルタル浮きの場合)手順4

    エポキシ樹脂注入
    注入ポンプを用いてエポキシ樹脂を注入する。(高圧注入)

  • エポキシ樹脂ピン注入工法(床面モルタル浮きの場合)手順5

    ステンレス全ネジピン挿入
    補強のためステンレス製の全ネジピンを挿入する

  • エポキシ樹脂ピン注入工法(床面モルタル浮きの場合)手順6

    施工完了
    あふれたエポキシ樹脂をふき取り、穴埋めをして完了

エポキシ樹脂ピン注入工法(モルタル笠木浮きの場合)

モルタルとコンクリートの収縮係数の違いにより、乾燥収縮を繰り返す手摺壁のモルタル笠木は浮きが特に生じやすい部位です。
浮た笠木は落下の危険性が生じるため適切な処置が必要で、20.0cm位の間隔で穿孔してエポキシ樹脂を注入し、全ネジピンを挿入してしっかりと固定します。

  • エポキシ樹脂ピン注入工法(モルタル笠木浮きの場合)手順1

    施工前
    浮きを確認してマーキングを行う

  • エポキシ樹脂ピン注入工法(モルタル笠木浮きの場合)手順2

    穿孔の状況
    6.0mmのピン径にドリルで穿孔する。せん孔は躯体コンクリート中に30mm以上行う

  • エポキシ樹脂ピン注入工法(モルタル笠木浮きの場合)手順3

    清掃
    孔内の切粉をブラシや圧縮空気等で除去する

  • エポキシ樹脂ピン注入工法(モルタル笠木浮きの場合)手順4

    エポキシ樹脂注入
    注入ポンプを用いてエポキシ樹脂を注入する。(高圧注入)

  • エポキシ樹脂ピン注入工法(モルタル笠木浮きの場合)手順5

    ステンレス全ネジピン挿入 完了
    補強のためステンレス製の全ネジピンを挿入して穴埋めをする

モルタル充填工法(鉄筋爆裂叉は欠損の場合)

コンクリートは元来アルカリ性ですが、風雨にさらされ年月を経た結果次第に表面から中性に変わっていきます。
そうするとコンクリートは強度を失い、脆くなるとともに 内部の鉄筋も腐食しやすくなります。
内部で腐食した鉄筋が膨張し周辺のコンクリートを押し上げた状態を鉄筋爆裂と呼びます。

コンクリートが押し出されてひび割れ、そこからさらに雨水が侵入して鉄筋の腐食がさらに進行するという形になり、放置すればするほど劣化が進行します。
こうした箇所の補修は、まず脆弱化したコンクリート内鉄筋の錆を除去し、鉄筋に防錆材を塗付した上で樹脂モルタルによる埋め戻しを行います。

  • モルタル充填工法(鉄筋爆裂叉は欠損の場合)手順1

    施工前
    爆裂箇所を確認してマーキングを行う

  • モルタル充填工法(鉄筋爆裂叉は欠損の場合)手順2

    斫りの状況
    コンクリートを削って腐食した鉄筋を露出させます

  • モルタル充填工法(鉄筋爆裂叉は欠損の場合)手順3

    ケレン&清掃
    危弱部を斫り(はつり)取った後、ほこり等を除去し、清掃で強固なコンクリート下地を出す

  • モルタル充填工法(鉄筋爆裂叉は欠損の場合)手順4

    防錆ペースト塗布
    鉄筋の錆止め処理を行った後プライマーを塗布する

  • モルタル充填工法(鉄筋爆裂叉は欠損の場合)手順5

    エポキシ樹脂モルタル充填
    補修部の状況に合わせ、数層に分けてエポキシ樹脂モルタル又はポリマーセメントを充填または塗り付ける

  • モルタル充填工法(鉄筋爆裂叉は欠損の場合)手順6

    施工完了
    エポキシ樹脂トモルタルの仕上がり状態、硬化状態および後片付けを確認する

実費清算方式ついて

実数清算方式とは

ひび割れ・モルタル浮きや鉄筋露出などに代表される下地補修工事は、劣化調査によって必ずしも全体の目視や打検ができないため、事前に数量が推定でしか決められません。
このようなリフォーム・リニューアル特有の工事数量は、本工事の足場架設後、全数調査して実施数量による工事金額の精算が合理的です。
そのような方式を「実数精算方式」といいます。

一方、金額の変動を嫌い、数量を固定して契約し、請負工事の特性から増加分は施工者で負担するという方式もありますが、その場合、推定の数量で契約するとやや多めに見積もる傾向になります。
結果的に実際の数量が増加して施工者側の負担になる場合もありますが、反対に数量が減って結局施主様側で割高な工事になることも考えられます。

管理組合様では限られた工事予算のため後者を選択されるケースもありますが、下地補修工事の内容が明確化されない事も考えられ、検証する事が難しくなります。
管理組合員様の合意を前提として行われる大規模修繕工事ですが、この点は下地補修工事の理解が得られ難い事と、内容が明確化されない事により不安要素が残り易いともいえます。

基本的にはできるだけ実数清算方式を推奨しますが、この場合、工事見積りの条件として工事仕様書の総則事項や下地補修工事の項目を明確にしておく必要があります。

根拠となる施工図の作成

根拠となる施工図

実数清算方式を選択した場合、足場を架設した後にひび割れ・モルタル浮きや鉄筋露出などの全数調査を行います。
その調査結果を基にした実数精算下地補修数量表を作成し、補修箇所の根拠となる施工図(右図)を作成します。

見積り段階の計画数量と実施集計数量に大きな差がある場合は、発注者・施工者・監理者の三者協議を行い、補修数量の増減把握と今後の下地補修工事の方針を再確認します。
施工が完了した段階で数量の増減清算を行い最終的な下地補修金額を確定します。

増減数量の集計表と施工図(補修箇所のマーキング図)を作成することにより、施工内容の明確化と検証作業が行われ、竣工図書として残すことが出来ます。

なお、管理組合の皆様には「実数清算方式」が良く理解されていないケースもあり、この方式に否定的なご意見もありがちですが、より合理的で無駄のない工事を目指すためには有効な選択指になると思われます。

実数精算下地補修数量表PDF(49KB)はこちらから