マンション大規模修繕工事の中で塗装工事の範囲として、共用廊下・バルコニー・階段室の壁や天井・手摺壁が含まれます。現在では刺激臭の有る溶剤系塗料は使わず、塗装の仕様は水性系の塗料が一般的に使用されています。
下地補修工事やタイル貼り・シーリングなどと異なり、塗装の仕様については注目度は少し低いようで、実際入居者様にとっては、どのような作業が行われているかは余り馴染みがないと思います。
しかし、塗装工程は美観を整えること以外に塗膜の耐久性の維持は重要で、適切な設計仕様に基づいた作業工程を重ねることが特に重要です。これを疎かにした場合、塗膜の剥がれや変退色の発生、塗装面のパターンの不揃い、又は均一な色艶や鮮やかさが出ない事もあります。基本となると膜の耐久性は勿論、美観の向上を目的とする塗装仕上げは不適切なものなります。
【作業の工程】
①パターン戻し
補修したモルタル面にそのまま塗装するとパターンが付いていないので平滑になり、塗装仕上げした場合大きく目立って美観を損ないます。その為、既存のパターン(凹凸上の模様)に近く戻すため、エアレス(吹き付け)又はローラーを使い、弾性系の透湿性のある厚い材料を使い、均一にパターンを付けてゆきます。通常は「微弾性フィーラー」と呼ばれる粘度の高い下塗り材が使われます。この差際、ローラーの使い方によって仕上りに差が出てきますが、熟練の職人ならば補修跡は余り目立ちません。
②下塗り材塗布
パターンを戻した後、下塗り材としてシーラーを塗りますが、改修工事(塗替え)の場合にはパターン付けと同様の「微弾性フィーラー」が使用され、壁全体を規定の塗布量を保って塗ってゆきます。この下塗り材は厚手で乾いても少し弾力性を保ち、ヘアクラック(幅0.2mm位)には切れずに追従する特性を持っており、たとえ仕上げ面の塗膜に少しヒビが入っても影響を受けず、雨水の侵入やヒビ割れの拡大を防ぎます。
③仕上げ塗装
最近の大規模修繕工事の塗装仕様では水性シリコン樹脂塗料が多く使われていますが、かつては少しグレードの低い「ウレタン樹脂塗料」や「アクリル樹脂塗料」が主に使われていました。この塗料の差は「耐候性」の差によるもので、紫外線によって塗膜の樹脂が分解され、褪色やチョークの粉のようになる「チョーキング」になる耐久性の違いを表したものです。
従って、12年位前に縫ったウレタン樹脂塗料やアクリル樹脂塗料よりはグレードが高く、耐久性はましていると言えます。一般的な目安として、シリコン樹脂塗料で12~15年と言われています。
仕上げ塗装は中塗り・上塗りと同じシリコン樹脂塗料を2回塗って仕上げます。天候や気温によって薄める率は若干変わりますが、メーカーの仕様で5.0%以内となっており、これを超える場合は不適切な塗装という事になります。伸ばしやすくて作業はやりやすくなりますが、塗膜厚が付かない為耐久性や色ムラ、艶・鮮やかさに差が出てきます。しかし、塗ってしまえば外観から塗り回数の判断は難しく、職人や現管理者の良識に基づくものとなります。塗装直後ではなく、1~2年後位に不具合が発生するケースがあります。
なお、震災復旧工事の場合には予算の関係でタッチアップ(部分塗装)に留めるケースも有るようですが、せっかく下地を補修して高い材料で仕上げても、補修跡やパターンが残ってしまうと美観は損ねられ、大切なマンションの資産価値を落とすことになりかねません。
欠損部補修完了(エポキシモルタル充填後)
微弾性フィーラー厚塗りでパターン戻し
パターン戻し完了
壁全面に下塗り材を塗布(微弾性フィーラー)
下塗り完了
水性シリコン樹脂 中塗り・上塗り完了
同上
パターン戻し及びタッチアップの不具合の例 (他社物件)
関連サイト 「マンション修繕工事サイト仙台」
【仙台で外壁改修、塗装、防水を中心とした大規模修繕工事に特化した明和】


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